個人事業主が開業するために利用できる補助金とは
個人事業主が起業するには、まとまった資金が必要になるので、資金調達できるかどうかがポイントになります。起業するには、自己資金だけでは足りない場合が多いので、親族や知人から借りたり、銀行から融資を受ける必要があります。しかし、借りたお金は返さなくてはならないので、借り入れが多ければ、長期にわたって返済が続くことになり、大きな負担となります。なるべく借り入れを抑えるためには、補助金を活用するのがおすすめです。本記事では、個人事業主でも利用できる補助金について解説します。補助金を活用しようと考えている個人事業主の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
個人事業主が開業するときに使える補助金はある?
個人事業主が開業するときに使える補助金はあります。では具体的に、どのような補助金があるのでしょうか。その前にまず、補助金について説明しましょう。
補助金とは
補助金は、中小企業や小規模事業者のために、国や地方自治体が、税金を使って実施する資金面での支援制度です。創業時にはまとまった資金が必要になりますが、中小企業や小規模事業者は、なかなか資金を集めることができません。資金を調達するには、銀行で融資を受けるのが一般的ですが、融資を受けると、利子をつけて返済することになります。しかし、起業して間もない事業者にとって、利子つきの返済は大きな負担になります。
ところが、補助金は原則として返済義務がないので、補助金で資金の一部をまかなえば、金銭的な負担を軽減することができます。補助金は決められた要件を満たせば支給されますが、予算や件数に制限があるので、申請者すべてに支給されるわけではありません。また、公募期間も短いため、うっかりすると申請のチャンスを逃すこともあるので注意しましょう。補助金を実施している団体は、主に以下の4つです。
経済産業省
経済産業省では、中小企業や小規模事業者などを対象に、多くの補助金を実施しており、中小企業の業績アップや地域経済の活性化を目指しています。創業間もない企業を支援する補助金もあるので、小規模の事業者が利用しやすい仕組みになっています。
厚生労働省
厚生労働省では、職業能力向上や、雇用促進のために活用できる補助金を実施しています。高齢者や障碍者、第二新卒者を雇用する際に利用できる補助金など、いろんな種類の補助金があります。雇用を促進する際に利用できる補助金もあるので、従業員を増やす予定がある場合は要チェックです。
地方自治体
全国の地方自治体が、独自に実施している補助金があります。それぞれの地域の経済を活性化させるため、地域の特色を生かした補助金が多いのが特徴です。ただし、自治体によって、補助金への取り組み方に差があるため、福祉系の補助金はあっても、中小企業向けの補助金がなかったり、補助金そのものがない場合もあります。地方自治体の補助金に興味がある方は、住んでいる地域の自治体のホームページを、チェックすることをおすすめします。
民間団体・企業
民間団体や、一般企業が実施している補助金もあります。補助金の内容や支給額、支給条件は、それぞれの団体や企業によって違います。
個人事業主が使える補助金 一覧
個人事業主が使える補助金には、以下のようなものがあります。
創業支援等事業者補助金
創業支援等事業者補助金は、これから起業する個人事業主や、小規模事業者などを支援するための補助金です。起業時に必要になる費用の一部を補助してもらえるので、起業資金が足りない場合に利用することができます。創業支援等事業者補助金は、以前は創業補助金、地域創造的起業補助金などと呼ばれており、産業競争力強化法に基づいて設立された補助金です。
雇用促進と地域経済の活性化を目的とした補助金なので、補助金を受ける企業だけでなく、その地域まで潤うように考えられています。創業支援等事業者補助金の対象は、「新たに創業を予定する者」と定義されています。つまり、創業を予定している人すべてが、対象となるわけです。補助率は補助対象経費の3分の2以内、補助額は50万円~1,000万円となっています。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の販売ルート開拓に必要な費用のうち3分の2、上限50万円まで支給される補助金です。商工会議所が実施している補助金で、採択率が高く年に複数回の公募があり、申請しやすい人気の高い補助金です。働き方改革や被用者保険の適用拡大、従業員の給料アップ、販売ルート拡大などの、取り組みに対して支給されます。この補助金は、商工会議所のサポートを受けられるので、販売ルート拡大など、起業して間もない事業者には困難なことも、アドバイスをしてもらいながら、進めることが可能です。
比較的採択されやすい補助金ですが、その年度の予算規模や、申請数などによって難易度が変わります。小規模事業者持続化補助金の対象は、卸売業・小売業・サービス業・製造業など、従業員数5名以下(製造業は20名以下)の小規模事業者で、補助率は補助対象となる経費の3分の2以内、補助額は上限50万円までとなっています。
ただし、小規模事業者持続化補助金の申請には、商工会議所で作成してもらった事業支援計画書を、添付しなければなりません。そのため、商工会議所のサポートを受けないと、小規模事業者持続化補助金には、申し込めないことになっています。
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、コロナ禍の影響により売上が激減した事業者が、事業や業態を転換するほどの、大きな事業再構築を行うのを支援するための補助金です。事業再構築補助金の一番の特徴は、1兆1,485億円という補助金史上最大の予算規模を誇り、1社に対する補助金額も、最大で1億円まで支給できることです。中小企業、個人事業主、中堅企業を対象にした補助金で、大企業は対象外のため、中小企業の定義が厳密に規定してあります。
事業再構築補助金を利用することによって、新たな商品を開発して地域経済に貢献し、従業員の雇用促進や、賃金をアップすることを目的としています。最大で1億円まで支給される補助金なので、要件が厳しく採択率も低くなっていますが、それでも多くの企業が申請したがる補助金です。
申請するための資料作りにもかなりの労力が必要で、採択されても補助金が支給されるとは限らず、また、補助金が支給されても、状況によっては、一部返還や全額返還を求められる場合もあります。また、最大で1億円といっても、実際には数百万円程度しか支給されないケースが多いようです。
ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
1千万円の補助金が支給されることもある、大型の補助金です。事業再構築補助金は、最大で1億円まで支給されるというものの、実際には数百万円の支給がほとんどですから、それに比べると、こちらのほうが大きな金額が支給されやすくなっています。中小企業や小規模事業者が、生産性向上に取り組んだり、試作品や生産工程の改善などに取り組むと、設備投資費の一部が支給対象となります。
支給額は100万円~1,000万円まで、補助率は3分の2までとなっています。支給額が大きいのがメリットですが、実際に利用するには、最低でも150万円以上の設備投資が必要ですから、一旦自己負担で150万円以上の金額を用意しなければなりません。また、提出書類が多く内容も細かいため、書類作成に時間がかかるのも難点と言えるでしょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、勤怠管理システムや在庫管理、売上管理などのITツールを、導入する際に利用できる補助金です。ITツールの導入以外には利用できませんが、業務効率化や生産性向上などの、有料ソフトを導入する際にも使うことができます。最大で150万円まで支給されますが、補助率は2分の1で、他の補助金に比べると低くなっています。IT導入補助金を申請する際は、よろず支援拠点や商工会、商工会議所などに相談しながら、導入したいITツールを決めましょう。事業者が自由に、ITツールを選んで申請できるわけではないので、注意が必要です。
開業資金はどのくらいかかるのか?
個人事業主が起業するには、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。起業に必要な資金を割り出すことによって、どれくらい補助金を支給してもらえれば、スムーズに起業できるか目安がわかります。起業に必要な資金は、業種によって大きく異なります。たとえば、司法書士事務所や弁護士事務所などを開業するには、100万円もかからないでしょう。しかし、飲食店を開業するとなると、厨房設備などにかなりの費用がかかるため、少なくとも数百万円は必要になります。
もちろん、飲食店の場合は、1,000万円以上かかることも珍しくありません。また、クリニックなどの場合は、専門の医療機器が必要になるので、数百万円から1,000万円以上の資金が必要な場合もあります。手持ちの資金が十分にあればともかく、そうでなければ銀行などからの借り入れで、資金をまかなうことになります。このような場合に、補助金をうまく活用すれば、自己資金が少なくても開業資金を用意することができるでしょう。
個人事業主が補助金を使うメリットデメリット
個人事業主が補助金を使うと、いろんなメリットがありますが、逆にデメリットもあります。では具体的に、どんなメリットやデメリットがあるのか、見ていきましょう。
メリット
・返済義務がない
個人事業主が利用できる補助金は、返済義務がないので、補助金が支給されれば、資金繰りの負担が大幅に減少するというメリットがあります。規模が小さく、しかも起業して間もない事業者は、金融機関から融資を受けるのが難しいため、補助金の支給が、大きな支援になることは間違いありません。また、補助金を申請する際に、事業計画書を提出するケースが多いのですが、事業計画書を作成するために、自社の事業内容を再度把握することになるので、今後の事業展開にも役立ちます。
・しがらみのない資金
補助金は返済の義務がないほかに、資金の見返りも求められることがありません。銀行などで融資を受けると、銀行の融資担当者が、起業経営に介入してくる場合もあります。また、親族や知人などから、融資してもらった場合も同様です。資金を出してもらった以上、何らかの主張をされても仕方がないでしょう。
しかし、企業経営に関して、出資者に深く介入されると、事業者の舵取りがうまくいかず、経営の方向性を誤ってしまうおそれもあります。しかし、補助金を支給されても何のしがらみもないので、経営に介入されることがないのも、大きなメリットと言えるでしょう。
・自社の現在の状況がわかる
上記でも少し触れましたが、補助金を申請するには、事業計画書を作成する必要があります。事業計画書を作成すると、自社の現在の状況がリアルにわかります。事業計画書を作らなければ、わからなかったことも多いため、知らずにいたら、大きな問題につながるようなポイントに気づけることも、大きなメリットと言えるでしょう。また、補助金の申請には審査があるので、作成した事業計画書の内容について、第三者から意見をもらうこともできます。通常、事業内容について、第三者から意見をもらうことなどないので、これも得難いメリットになります。
・外部からの信用が得られる
補助金を受給すると、金融機関からの信用を得ることができます。補助金が支給されたということは、その企業の事業内容が、国や地方自治体に認められたことになるため、金融機関の信用度が上がり、融資の際に有利なるメリットもあります。
デメリット
・要件が難しい
補助金によって提出書類はさまざまで、満たすべき要件にも違いがあります。要件を満たすのが困難な補助金も多く、申請しても採択されなかったり、採択されても支給額を減額されて、思ったほどの資金が得られないケースもあります。
・提出する書類が多い
補助金の申請には、多くの書類や添付資料が必要になります。これらの書類や添付資料は、事業者が仕事の合間に作成することになるので、かなりの手間がかかります。しかも、提出する書類に不備があると、不採択になる可能性が高まるので、ミスのないように作成しなければなりません。これは並大抵のことではないので、十分な準備期間を取って、書類の作成に当たりましょう。せっかく苦労して書類を作成しても、不採択になるとすべての努力が水の泡になってしまうことも、あらかじめ知っておく必要があります。
・支給までに時間がかかる
補助金は、申請してから支給されるまでに、かなりの時間がかかります。申請から支給までに1年以上かかることも珍しくないので、すぐに資金が欲しい場合は間に合いません。また、補助金は原則として後払いなので、事業展開に必要な資金は、一旦自己負担で用意する必要があります。また、自己負担で資金を用意しても、補助金が不採択になると、自己負担がそのまま借り入れとして残るリスクもあります。
・申請期限がある
補助金の申請はいつでもできるわけではなく、申請期限があります。期限内に申請しないと審査してもらえないので、採択されることもありません。申請期限に1日でも遅れると、次の申請開始まで待たなければならず、場合によっては翌年まで持ち越しになることもあります。必要書類に不備があった場合も、期限内に再提出が求められるので、補助金の申請は余裕をもって行いたいものです。
補助金を申請する際の注意点
補助金が支給されると、事業者は資金面で楽になりますが、補助金を申請して採択されるためには、いろんな点に注意しなければなりません。補助金の申請には、どんな注意点があるのか見てみましょう。
人気の補助金は倍率も高い
補助金にはいろんな種類があり、ほとんどの申請者が採択される補助金もあれば、採択率は低いものの、補助金額が大きいものなどがあります。当然ながら、補助金を申請するなら、大きな金額を支給されたいと考える人が多いので、そのような補助金には多くの事業者が殺到します。そのため、支給額が大きいなどの理由で人気の高い補助金は、採択率が低くなる傾向があります。採択される数はほぼ決まっているので、申請者が多ければ、採択率が下がるのは当然のことです。
提出書類は要件に合ったものを用意する
補助金の申請には、多くの書類が必要になります。事業計画書をはじめとする、提出書類の作成にはかなりの時間と労力がかかります。もちろん、ただ書類を用意するだけでなく、審査員を納得させるだけの、裏付けのあるデータを添付した上で、事業計画書を提出しなければなりません。必要書類に不備や記載漏れがあると、不採択になる可能性が高まるので、書類作りは慎重に行いたいものです。書類作成のポイントは、補助金の要件をすべて満たすことです。
そのためには、補助金の目的をよく理解して、書類を作成する必要があります。たとえば、事業再構築補助金は、コロナ禍によって売上が激減した事業者が、対象となっています。たとえ売上が激減しても、コロナ禍以外の原因で激減した場合は、対象とはなりません。また、コロナ禍による影響を脱却するために、業種や業態を転換するほどの事業再構築を行わないと、補助金は採択されません。
これらの点を考慮しないで事業計画書を作成しても、事業再構築補助金の事業計画書としては認められないので、採択されることはないでしょう。このように、補助金を申請する場合は、その補助金が何を目的としているか、要件はどうなっているかなどについて、しっかり確認した上で、事業計画書を作成する必要があります。
その上で高い倍率を勝ち抜くためには、「この企業には補助金を支給するだけの価値がある」と思ってもらえるような、事業計画書を作成することが大切です。審査員は、「この企業に補助金を出す価値があるか」ということだけを見ていることに、気づく必要があります。
採択されるためのポイント
試験には、合格させることを目的とした試験と、不合格にすることを目的とした試験があります。たとえば、自動車免許の試験は合格させることを目的としており、条件を満たせば合格になります。しかし、大学の入学試験や会社の就職試験は、不合格にすることを目的としています。
つまり、これらの試験は、「条件を満たさなければ落とす」ための試験なのです。これと同様に、補助金の審査も、「条件を満たさなければ落とす」ために審査を行います。そのため、審査は厳しくなる傾向があるのです。そんな補助金の審査に、合格するためのポイントをご紹介します。
要件通りに作成する
事業計画書をはじめとする審査のための書類は、細部にいたるまで、要件通りに作成されていなければなりません。少しでも要件を満たしていないと、それだけで不採択になる可能性が高まります。ただ要件通りに作成するだけでなく、その上で自社の事業の内容を、いかに魅力的に伝えることができるかが、採択されるかどうかにかかっています。ただ単に事実を羅列しただけでは、事業の魅力は伝わらないので、自社の想い入れや「熱」を伝えるような書き方を、工夫することが大切です。
申請期間を把握する
補助金の申請期間は、公募要領に記載されています。補助金の申請は、決められた期間しか受け付けてもらえないので、まず申請期間を正しく把握しておく必要があります。補助金に申請するために、提出書類を時間をかけて作成したとしても、公募期間が過ぎてしまっては、まったく無駄になってしまうので、公募期間を把握するのは大切なことです。補助金申請の受付期間は、かなり早い時期から公表されているので、書類作成の期間は十分にありますから、しっかり申請期間を確認して、準備にあたりましょう。
補助金は早い者勝ち
補助金は年に数回公募がありますが、いつでも同じ条件で採択されるわけではありません。補助金には予算があるため、申請数が予想以上に多い場合は、すぐ予算に達してしまうおそれもあります。そのため、年度内の公募のうち、あとの公募になるほど、採択率が下がる傾向にあります。予算が少なくなれば、採択できる件数が減るので、採択率が下がるのは当然のことです。そこで、補助金に採択されるためには、年度内でなるべく早い公募に申請するようにしましょう。
書類の記載は正確に行う
書類を正確に書くのは当たり前のことですが、補助金の申請書類の中には、この当たり前のことが、守られていないケースも多いようです。事業者は本業の合間に書類を作成するので、時間がないため、どうしても見落としが起きてしまうのでしょう。しかし、書類にミスがあると、不採択になる可能性が高まるので、提出前に何度も見直して、ミスのない状態で申請したいものです。また、必要な添付資料が、揃っていないケースもあるようです。
添付資料は必ずしも必要なものではなく、書き方も決まっていませんが、事業計画書の内容を証明するために必要だったり、よりわかりやすくするために、添付資料をつけることがあります。添付資料がないために、事業計画書の内容が正しく伝わらないと、不採用になる可能性が高くなるので、必要な添付資料をつけ忘れることのないようにしましょう。また、補助金には目的があるので、その目的に沿った事業計画書を作成しないと採択されないため、補助金の目的をしっかり把握することが大切です。
要件に該当しないと対象外
補助金の要件は、補助金によっては、かなり厳密に規定されています。このような場合は、少しでも要件に合致しないと、申請しても採択されないので注意しましょう。要件と申請条件をしっかり把握しないと、時間をかけて提出書類を作成しても、無駄になるので気をつけたいものです。
要件が変わることがある
補助金の要件は、公募回数が増するごとに、微妙に改変される場合があります。また、年度が新しくなると、要件が大きく変わる場合もあるので注意しましょう。前回の公募要件や、前年度の要件を見て申請すると、最新の要件の内容と合わない場合もあります。
まとめ
個人事業主が起業する際の資金調達の方法として、補助金があります。起業する際に自己資金だけでは足りない場合、銀行などから融資を受けることになりますが、実績のない事業者にとって、銀行融資はかなりハードルが高くなります。そこで、足りない資金を調達するのに、補助金を活用する方法がおすすめです。補助金は、融資とは違って返済する必要がないので、資金繰りの負担が軽くなるのが大きなメリットです。補助金の中には、個人事業主でも申請できるものが数多くあるので、自社に合った補助金を選んで申請しましょう。
事業再構築補助金