小規模事業者持続加補助金 失敗しない申請の仕方―美容室の場合
美容室・サロンの数は、令和元年まで右肩上がりに増えていて、直近5年間でも毎年3,000店も増えています。(厚生労働省『衛生行政報告』)。
競争が激しくなればなるほど、資金繰りは経営者の頭痛の種です。設備更新や従業員の福利厚生などを怠ることはできません。
今回とりあげる「小規模事業者持続化補助金」は、平成26年から継続的に実施されていて、令和3年までにのべ約26万件の受給者が誕生しています。
「他店に後れをとるな」が経営者の性(さが)。
自分だけが補助金をもらえない悪夢にうなされないように、失敗しない補助金申請の仕方を詳しくお伝えします。
目次
美容室で使える補助金とは?
経営者にとって、資金繰りは頭の痛い問題の一つ。給付金や助成金、補助金などはまっさきに利用を考えてみる選択肢のうちのひとつです。
まず要件を満たせば受け取れるのが、給付金と助成金です。給付金は何に使ってもよく、制限がありません。
一方、助成金と補助金は、返済する必要はありませんが、事前に承認を受けた事業計画以外は認められません。
また、助成金・補助金では、自己資金を必ず加えて事業計画を実施することが求められます。自己資金(借入金などを含む)と助成金・補助金の割合を助成率や補助率といいますが、この割合が高いほど、自己資金を少なくすることができるので、申請者にとっては使い勝手がよくなります。
さらに、補助金には事前審査があり、要件を満たしたからといって、必ずしも給付を受けとれるわけではありません。補助金の採択率は40%~50%といわれています。
現在公募が継続されていて、美容室が利用しやすい補助金は小規模事業者持続化補助金ですが、本年4月からは、成長分配強化枠などが新設され、補助額の引き上げや、赤字事業者に対する補助率のアップが中小企業庁によって発表されています。
同一事業に対して複数の補助金の受給は認められせんので、補助金が充実する第8回公募(締切6月の予定)まで待って申請するか、予算枠の競争率が低くなるであろう今、第7回公募(締切2月4日)で申請するか、思案のしどころです。
小規模事業者持続化補助金(一般型)
かりに、今、小規模事業者持続化補助金を申請するとしましょう。
小規模事業者持続化補助金は「一般型」(第7回)と「低感染リスク型ビジネス枠」(第6回:締切3月9日)に分けて公募されています。ここでは、まず「一般型」について、次節では「低感染リスク型ビジネス枠」についてみていくことにしましょう。
なお、申請者が単独か、共同(複数の小規模事業者)かによって申請の仕方や補助金の上限額は区分されていますが、本質的な違いはありませんので、以下では特に断らない限り、単独申請についてみていくことにします。
まず公募対象者は、小規模事業者とされています。ここで、「事業者」には株式会社などの法人のほか、個人事業主なども含まれます。(なお、事業者については、直近過去3年間の課税所得の年平均が15億円を超えないことなども条件となっています)
美容業の場合の「小規模」とは、従業員が5人以下の事業者となります。ただし、この従業員の中には、派遣社員、役員、同居の親族従業員、パートの方(正社員と同じ勤務時間の方は含まれてしまいます)などは含まれません。
次に、一般型の要件は、商工会あるいは商工会議所の助言を受けて経営計画を作成し、その計画に沿って地道な販路開拓・業務効率化に取り組む事業を行うことで、その費用の2/3(原則として上限50万円)が補助されます。
費用の残りの1/3については、自己資金あるいは借入金などで工面する必要があります。
また、この補助金の上限は50万円ですが、開業日が令和2年1月1日以降の事業者、「認定市区町村による特定創業支援等事業の支援」を受けた小規模事業者等は、上限が100万円になります。
なお、商工会と商工会議所は、中小企業の支援などを目的とする地域内の商工業者を会員とする全国組織です。どちらの団体に相談すればいいのかについては、事業者の住所により決まっていて、重複することはありません。目安は、市や特別区などが商工会議所、町村が商工会となります。
商工会や商工会議所の会員でなくても、経営計画の助言を受けることができ、補助金の申請も可能です。
小規模事業者持続化補助金(低感染リスク型ビジネス枠)
公募対象は、一般型と同じ小規模事業者で、商工会・商工会議所の会員ではなくても補助金申請できます。商工会・商工会議所による経営計画の事前確認は任意となっていて、相談することは可能です。
また、第6回公募より、プレ審査サービスが実施されることとなりました。このサービスは2月15日(火)までに申請完了した全事業者に対し、申請書類の不備の有無をチェックするというものです。不備があった場合には、10日程度で通知が届き、速やかに修正することができます。
プレ審査で不備がなくても、本審査で採択されることが保証されたわけではない点には注意が必要です。
低感染リスク型ビジネス枠の要件は、新型コロナ感染拡大防止のための対策と事業継続を両立させる新たなビジネスモデルやサービスなどを取り入れることです。この導入に要した経費の3/4が補助されることとなっています。
補助金の上限は100万円ですが、対人接触機会の減少に役立つものでなければ補助対象経費にはなりません。たとえば、換気設備の新設・更新や、消毒・除菌用の薬液やディスペンサ―の購入など対人接触機会の減少と関係のない感染防止対策については、補助金総額の1/4(最大25万円)の範囲にかぎり認められています。
「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」の違い
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が経営計画を策定して行う販路拡大・効率向上の取り組みを支援する制度です。
この「一般型」に対して、新型コロナの感染リスク防止のために、接客回数・時間や従業員同士の接触する機会を減少させることと事業継続を両立させるための特別枠が「低感染リスク型ビジネス枠」となります。
「低感染リスク型ビジネス枠」は緊急事態宣言下での支援を目的としていた「コロナ対応特別型」を引き継いだ形で実施されています。
「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」の主な相違点は次の通りです。
申請方法:一般型は郵送か電子申請、低感染リスク型ビジネス枠は電子申請のみ(後述)
商工会・商工会議所の指導・支援:一般型は必須、低感染リスク型ビジネス枠は任意
補助上限額(原則):一般型は50万円、低感染リスク型ビジネス枠は100万円
補助率:一般型は2/3、低感染リスク型ビジネス枠は3/4
対象経費:一般型は交付決定後の発生した、13費目に分類された経費、低感染リスク型ビジネス枠は令和3年1月8日以降に発生した経費で、12費目に分類された経費
感染防止対策費:一般型はナシ、補助金総額の1/4(最大25万円)の感染防止対策費
注意点:感染リスク型ビジネス枠においては、感染防止対策費を除く経費はすべて対人接触機会の減少に役立つものでなければなりません
小規模事業者持続化補助金の申請条件
一般型はJグランツによる電子申請(共同申請は不可)と郵送による申請が認められていますが、低感染リスク型ビジネス枠はJグランツによる電子申請のみとなっています。
Jグランツを利用するためには、あらかじめJBizIDを事前に取得しておかなければなりませんが、申請から取得までおおむね1週間程度かかります。
小規模事業者持続化補助金に限らず、今後の補助金申請は電子申請が主流になっていきますので、早めに準備をしていた方がよさそうです。
以前に小規模事業者持続化補助金を受けた事業者でも、採択日から10か月を超えると、内容が以前と異なる事業であれば再申請が可能となります。しかし、同一内容の事業について再度申請することはできません。また、国などが実施する他の補助金を受け取っている場合も同一内容の事業での申請はできません。
対象となる活用事例
一般型では、販路拡大・業務効率の向上により、事業を実施後、概ね1年以内に売上の向上が見込める事業が補助の対象となります。
オンラインでの毛髪や美容に関するコンサルタント業務のための設備・スタッフの導入
新たにインターネットショップを開設して、関連商品などを販売するための設備の導入
新しい層の顧客開拓のためのサービスを宣伝するパンフレット、チラシの作成
画面上で色々なヘアスタイルを試せるアプリの開発
男性でも入りやすい店内デザインの改装
毛髪チェックやヘッドスパなど付加価値サービスの導入
老人ホームなどへの訪問美容
新しい顧客層の獲得のための脱毛サービス導入
低感染リスク型ビジネス枠では、感染防止のための対人接触機会の減少と事業継続を両立させるビジネスモデルやサービスを導入する事業が対象となります。
利用スペース・待合室の拡大
利用者・従業員の動線の変更のための設備除去
利用予約システムの開発・導入
自動洗髪機の導入
自動決済装置の導入
利用者がみずから行うセルフエステなどの機器導入
換気設備の更新・新設
補助対象となる経費
「一般型」「低感染リスク型ビジネス枠」どちらにも認められる経費
機械装置等費 製造装置や移動販売車両、ITツールの購入等
広報費 新サービスを紹介するチラシやネット広告の作成・配布
展示会等出展費 展示会・商談会の出展料等(低感染リスク型ビジネス枠ではオンライン開催に限る)
開発費 新商品・システムの試作開発費等(販売商品の原材料費は対象外)
資料購入費 補助事業に関連する資料・図書等
雑役務費 補助事業のために雇用したアルバイト・派遣社員費用
借料 機器・設備のリース・レンタル料(所有権移転を伴わないもの)
専門家謝金 指導を受けた専門家への謝金
設備処分費 新サービスを行うためのスペース確保を目的とした設備処分等
委託費・外注費 店舗改装など自社では実施困難な業務を第3者に依頼(契約必須)
「一般型」のみに認められる経費
旅費 事業実施のための情報収集・各種調査、販路開拓等
専門家旅費 事業実施に必要な指導・助言等を依頼した専門家に支払われる旅費
「低感染リスク型ビジネス枠」のみに認められる経費
感染防止対策費業種別ガイドラインに基づく感染防止対策(アクリル板設置等)
補助対象経費となる条件
次に、どのような場合に経費が補助対象となるかは次のように決められています。
一般型
使用目的が補助金申請事業の実施に必要なものと明確に特定できる経費
交付決定日以降に発生し、事業実施対象期間中に支払いが完了した経費
払込票などによって支払金額が確認できる経費
低感染リスク型ビジネス枠
補助対象経費の全額が退陣接触機会の減少に資する取り組みであること(感染防止対策費を除く)
使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
原則、交付決定日以降に発生し対象期間中に支払いが完了した経費
証拠資料等によって支払金額が確認できる経費
申請する補助対象経費については具体的かつ数量等が明確になっていること
注意しなければならない点として、補助事業実施期間外に納品されて事業が実施できなかった機械装置等は、支払が期間内に行われていたとしても、経費としては認められません。
また、クレジットカードは、実施期間中に引落が確認できたもののみが経費として認められ、期間外の引落分は認められません。
さらに、50万円以上(税抜き)で購入した機械装置などは、一定期間処分が制限され、その期間内に処分しようとするときは商工会・商工会議所に承認を受けなければなりません。
物品の購入などにつきましては、仕様提示した上での見積書、発注書、納品書、請求書、支払確認書(振込票など)を保管し、提出を求められた際に対応できるように整理しておく必要があります。
手続きの流れ
「一般型」では、商工会・商工会議所による経営計画等の事前確認が必要になります。
必要書類の記入が済み、添付する書類がすべてそろいましたら、「一般型」であれば、郵送か電子申請で、「低感染リスク型ビジネス枠」であれば電子申請で、それぞれ申請します。
なお、「低感染リスク型ビジネス枠」では、2月15日(火)までに書類を商工会・商工会議所に送ると、提出書類に不備があるかどうか確認してもらえます(ただし、書類に不備がなくても、必ずしも採択されるわけではありません)。期限ぎりぎりに申請しますと、書類に不備があった場合、修正する時間がなく不採択になりますので、ぜひ活用していただきたいサービスです。
書類に不備がないことを確認してもらえたら、あとはすることがありません。ひたすら、結果を待ちます。
採否に関しましては、必ず連絡がありますので、登録したアドレスに届くメールには特に注意しておいてください。
なお、補助金事業の採択後に事業計画を変更する場合には、改めて変更内容の承認を求めるか、補助金受給を辞退しなければなりません。
採択されなければ、もう一度チャレンジするか、あきらめるかのどちらかです。
採択されれば、事業を実施し、期限まで実績報告を提出して、問題がないことが確認されてはじめて補助額が決まります。計画通り事業が実施されなかったり、支払った経費の帳表に不備があったりした場合には、補助金額が減額されることもありえます。
確定検査を経て補助金が決まりますので、その金額を請求すると補助金が指定口座に入金されますが、事業効果報告を出さなかったり、実施された事業が計画と異なっていたことが判明すると、補助金の一部、もしくは全額の返還を求められる場合もあります。
申請フロー
小規模事業者持続化補助金の申請から補助金の入金、事業効果報告までの一連のフローは次の通りです。
1 申請の準備
2 申請
3 申請内容の審査
4 採択・交付決定
5 事業実施
6 実績報告
7 確定検査・補助額の確定
8 請求
9 補助金の入金
10事業効果報告
スケジュール
締め切り期日までに必要な書類を揃え、電子申請(「一般型」は郵送もできます)します。
一般型(第7回):令和4年2月4日(金)
事業実施期間:令和4年11月30日(火)まで
実績報告書提出期限:令和4年12月10日(土)
(6月締切予定の第8回公募では、上限額が200万円まで引き上げられる)
低感染リスク型ビジネス枠(第6回):令和3月9日(水)
事業実施期間:令和4年10月31日(月)まで
実績報告書提出期限:令和4年11月10日(木)
第6回以降の予定は未定
必要書類
経営計画と補助事業計画
宣誓・同意書(反社会勢力ではないこと等)
月刊事業収入減少証明(特別措置を申請しない方は不要)
直近の確定申告書(個人事業主)、直近1期分の村営計算書(法人)、直近1期分の貸借対照表と活動計算書(NPO)
支援機関確認書(支援を受けた商工会か商工会議所から発行)
書き方 アドバイス
経営計画と補助事業計画が最大の難関です。写真、図、表を張り付けることも可能で、一般型では、経営計画、補助事業計画あわせて用紙8枚以内、低感染リスク型ビジネス枠では用紙5枚以内にまとめるよう求められています。
一般型の場合は、商工会・商工会議所に相談しながら経営計画・補助事業計画をつくる必要がありますが、低感染リスク型ビジネス枠の場合は任意です。
経営計画をムリに上手く書こうとすると、なかなかまとまらなくなり、結局申請をあきらめてしまいがちです。
それなら、コンサルタントや専門家、あるいは商工会や商工会議所に思いきって相談してみてはいかがでしょうか。これまでどんな事業が採択されたのか教えてもらえますし、自店でできるメニューもイメージしやすくなります。
自店の強みだけは相談に行く前に整理しておきましょう。たとえば技術が優れているとか、最新設備が整っているとか、固定客が多いとか、立地条件がいい、などはすべて強みとなります。
自店の強みがアンケート調査に裏づけされているとさらに説得力がまします。サンプル数はできれば50以上はあって欲しいところですが、それより少なくても今後の経営方針の貴重な道しるべです。商工会・商工会議所の方にも、自店の強みとアンケート調査を持参すれば、やる気は伝わるはずです。
もしこれからアンケート調査をするのであれば、質問票は選択肢を作り、質問数もできるだけ絞ると、回答していただくお客様の負担が少なく、結果もはっきり出るのでおすすめです。
自店の強みがわかれば、厚生労働省の人口動態調査を使うと、ターゲット層の人口がこれから増えるのか減るのかが客観的に推計できます。ほかにも、総務省の家計消費状況調査を活用すれば、年間の美容代も分かりますので、1回あたりの目標とする客単価も具体的な数字で示すことができます。
ちなみに、経営計画・補助事業計画の様式は次のようになっていて、商工会・商工会議所が記入のためのポイントや、記入例も公開しています。
なお、補助金の申請の際、賃金引上げ枠や政策上から優先される加点制度が設けられていますので、希望する、あるいは該当する場合には積極的に活用することを検討してみてください。(ただし、たとえば賃金引上げ枠で申請して、賃金引きを実施しない場合には補助金を返還しなければなりませんので注意してください)
一般型
経営計画
企業概要
顧客ニーズと市場の動向
自社や自社の提供する商品・サービスの強み
経営方針・目標と今後のプラン
補助事業計画
補助事業で行う事業名(30字以内)
販路開拓等(生産性向上)の取組内容
業務効率化(生産性向上)の取り組み内容(任意)
補助事業の効果
低感染リスク型ビジネス枠
経営計画
1.自社の事業概要
2.新型コロナウイルス感染症の影響・既に取り組んでいる対策
補助事業計画
1.補助事業名(30文字以内)
2.補助事業の内容
■補助事業内容(取組内容)
■必要な理由
■事業実施スケジュール
3. 補助事業の効果
まとめ
ここまで、小規模事業者持続化補助金の失敗しない申請の仕方について、「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」にわけてみてきました。
美容室は全国的にみても近年は出店の純増が続き、競争が激しくなっています。
そんななか、平成26年から続く小規模事業者持続化補助金の受給者は総計で26万件を超えています。
「みんながしていること」に経営者として乗り遅れてはなりません。
補助金の採択率は書類の不備を調整したうえで40~50%です。要件を満たして申請すれば、助成金と異なり、かならず認められるわけではありません。しかし、同じ事業内容で、補助金を2回以上もらうことはできないわけですし、令和3年に成立した補正予算をみても小規模事業者への補助金は今後拡充されていきます。
つまり、「粘り勝ち」もあり、です。
補助金の申請が採択されるということは、自店が認められた証です。それ自体は小さなステップかもしれませんが、その次の、激しい生き残りをかけた大きなステップにつながっていきます。
諦めなけば、失敗にはなりません。
本記事を補助金活用のきっかけにしていただければ幸いです。
小規模事業者持続化補助金(一般型)